想望手記

朗読家丨国立和歩のブログです。中原中也、高村光太郎等、近代詩の朗読を配信しています。

想望手記

コメント欄といいねボタン

私のブログでは、コメント欄やいいねボタン等を設置していません。それは今のSNS時代にはそぐわないことのように思えます。しなしながら私がそうしている理由は、コミュニケーションが苦手というのもあるのですが、私はただ、このブログを見に来てくれる貴方…

老いていく日々の中で

これは、私が死んだ後の話になるのですが、例えばこのはてなブログさんが100年先も存在していたとして、或いはユーチューブさんが1000年先でも保管されていたとして、その時代に生きる人々がふと私の文章を読んでくれたり、アップロードしている朗読を聴いて…

静かな夜の書斎にて丨ゆきてかへらぬ ――京都――

名前のない夜に月明かりはなく、白熱灯の明かりが部屋の全体を暖色に染めていました。中也さんの詩集を読みながら思うことは、私はこんなにも強く、夭折の天才詩人中原中也に会いたいと願っているのに、私の想いはこの先もずっと届くことはなく、こうして残…

ファミコンの思い出

先日、YouTubeラジオの中でお話したゲームの話題について、少しだけ掘り下げて書いてみようと思います。私が初めてテレビゲームに触れたのはファミコンの黎明期、1980年代の頃でした。当時はスーパーマリオブラザーズや、ファイナルファンタジーなどの有名タ…

詩の朗読と神の声音

この世界で唯一無二の文学を作り出すこと。それは恐らく全知全能の神として、世界を創造するに等しいことです。当然ながら私には不可能です。もしそれが叶うのであれば、全ての人に笑顔と幸せが訪れる文学を作りたい、と想像するのは雲の上の文学であり、そ…

双月の砂時計

緩やかに流れていく世界の中では、時間を意識することはないのだけれど、何か予定が近づいてくると少し話が変わってきます。それの時は、目の前に砂時計を置かれたような気分になるのです。 二つの透明な月を繋ぐ管に、刻々と流れていく時の砂、経過時間を計…

罪悪感はないのか|館内放送

鬼気迫るタイトルですね。いつも送っていただいた詩の一部を切り取って題名にしています。匿名さん、この度は詩のご応募をありがとうございました。心を込めて朗読させていただきました。貴方のその苦悩が少しでも安らぐように祈っています。 ラジオトークの…

空の青さを見つめていると

今日、朗読をしようと準備していたら、舌にできものがあるのに気づきました。ら行を発声すると痛むという事態に困惑しています。何が原因かはさておき、完治するまでは準備段階となりそうです。なかなか思うようにはいかないものですね。何事もそうであるか…

新年のご挨拶丨2023年

新年明けましておめでとうございます。 新年のご挨拶が出来る場所。それが在るのは幸せでした。今までの私は、なかなかこういう機会がなかったので、このような発表の場にとても感謝しています。今年も飛躍に向けて色々なことに挑戦したり、数多くを学んだり…

年末のご挨拶丨ブログ、ユーチューブ、スタンドエフエムを御覧の皆様へ

今年、最後の記事になります。これまで活動してきた半年間を振り返ってみると、私は夏の始まりに発声や朗読の勉強を始めました。このブログを開設したのもその時期でした。 あの頃は、ただただ漠然と何かを表現したいと思っていました。その表現というのは私…

秋の終わりと落葉

ついに秋が終わりました。世間ではとうに終わっていたのですが、私の秋が終わったのです。秋が終わると、冬が降りてきました。そう確信したのは、落ち葉が螺旋階段を昇っていくのを見たからです。視界の端からぱりぱりとした、血液の通っていない落ち葉が舞…

日曜日の朝のこと

どうやら何事もなく目が覚めて、いつもの呼吸が始まりました。ぼんやりと天上を眺めていると、段々と世界が鮮明に見えてきます。過去の記憶が一瞬で読み込まれて、私という人間が始まるのです。 私の思い通りの光が窓から差し込んでいないことがわかると、瞼…

色の世界が騒ぎ出すのを丨館内放送

あわわ、声を震わせながら収録してきました。三回目の館内放送になります。今の精一杯で録音しましたので、ご視聴いただければ幸いです。ご感想、ご指摘、アドバイス等いただけましたら大変嬉しいです。光希さん、素敵な詩のご応募をありがとうございました…

星めぐりの歌 - 宮沢賢治丨朗読

星めぐりの歌 あかいめだまの さそりひろげた鷲の つばさあをいめだまの 小いぬ、ひかりのへびの とぐろ。 オリオンは高く うたひつゆとしもとを おとす、アンドロメダの くもはさかなのくちの かたち。 大ぐまのあしを きたに五つのばした ところ。小熊のひ…

天景 - 萩原朔太郎丨朗読

天景 しづかにきしれ四輪馬車、ほのかに海はあかるみて、麦は遠きにながれたり、しづかにきしれ四輪馬車。光る魚鳥の天景を、また窓青き建築を、しづかにきしれ四輪馬車。 萩原朔太郎さんの詩集「月に吠える」より、天景の朗読をしました。朔太郎さんの描く…

あなたはだんだんきれいになる - 高村光太郎丨朗読

あなたはだんだんきれいになる をんなが附属品をだんだん棄てるとどうしてこんなにきれいになるのか。年で洗はれたあなたのからだは無辺際を飛ぶ天の金属。見えも外聞もてんで歯のたたない中身ばかりの清冽な生きものが生きて動いてさつさつと意慾する。をん…

北の海 - 中原中也丨朗読

北の海 海にゐるのは、あれは人魚ではないのです。海にゐるのは、あれは、浪ばかり。 曇つた北海の空の下、浪はところどころ歯をむいて、空を呪つてゐるのです。いつはてるとも知れない呪。 海にゐるのは、あれは人魚ではないのです。海にゐるのは、あれは、…

競争の逃亡者

例えばそう、私は椅子取りゲームが嫌いでした。ほら、あの音楽が鳴って、急に音楽がぴたんと止まって、皆で一斉に足りない椅子を取り合うあのゲームです。椅子に座れた人がいて、椅子に座れなかった人がいる。その構図に得体の知れない気味悪さを感じていま…

あなたはもうここにはいない|館内放送

誠に僭越ながら、インターネットラジオ的な動画をアップロードしました。まず国立にラジオトークが出来るのか問題ですが、緊張が過ぎて1オクターブ高い声になったり、所々声が裏返ったりと散々でした。お聞き苦しい部分が多々あるとは存じますが、回を重ねる…

朗読家としての始まり

朗読についてのエッセイです。貴方がこの記事を読まれる前に、最初にお伝えしたいことがあります。私は朗読について、特別な訓練を受けた人間ではありません。故に技術的なことを一切記すことができないのです。かてて加えて、演技や声のプロフェッショナル…

骨 - 中原中也|朗読

骨 ホラホラ、これが僕の骨だ、生きてゐた時の苦労にみちたあのけがらはしい肉を破つて、しらじらと雨に洗はれ、ヌックと出た、骨の尖。 それは光沢もない、ただいたづらにしらじらと、雨を吸収する、風に吹かれる、幾分空を反映する。 生きてゐた時に、これ…

あどけない話 - 高村光太郎|朗読

あどけない話 智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。私は驚いて空を見る。桜若葉の間に在るのは、切つても切れないむかしなじみのきれいな空だ。どんよりけむる地平のぼかしはうすもも色の朝のしめりだ。智恵子は遠くを見ながら言ふ。阿…

竹 - 萩原朔太郎|朗読

竹 光る地面に竹が生え、青竹が生え、地下には竹の根が生え、根がしだいにほそらみ、根の先より繊毛が生え、かすかにけぶる繊毛が生え、かすかにふるえ。 かたき地面に竹が生え、地上にするどく竹が生え、まつしぐらに竹が生え、凍れる節節りんりんと、青空…

林と思想 - 霧とマツチ - 宮沢賢治|朗読

林と思想 そら ね ごらんむかふに霧にぬれてゐる蕈のかたちのちひさな林があるだらうあすこのとこへわたしのかんがへがずゐぶんはやく流れて行つてみんな溶け込んでゐるのだよ こゝいらはふきの花でいつぱいだ 霧とマツチ (まちはづれのひのきと青いポプラ…

貴方の書いた詩を朗読させてください|館内放送

という、大変恐縮この上ないプロジェクトなのですが、どうかご支援いただけましたら幸いです。詩の募集について、テーマは設けていません。どのような内容の詩でも結構ですが、年齢制限のかかりそうな内容、暴力的、差別的な内容が含まれる場合は、朗読が出…

朝の歌 - 中原中也|朗読

朝の歌 天井に 朱きいろいで 戸の隙を 洩れ入る光、鄙びたる 軍楽の憶ひ 手にてなす なにごともなし。 小鳥らの うたはきこえず 空は今日 はなだ色らし、倦んじてし 人のこころを 諫めする なにものもなし。 樹脂の香に 朝は悩まし うしなひし さまざまのゆ…

山月記 - 中島敦|朗読

山月記 どうすればいいのだ。己の空費された過去は? 己は堪らなくなる。そういう時、己は、向うの山の頂の巖に上り、空谷に向って吼える。この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたいのだ。己は昨夕も、彼処で月に向って咆えた。誰かにこの苦しみが分って貰えない…

一つのメルヘン - 中原中也丨読み解き丨朗読

一つのメルヘン 秋の夜は、はるかの彼方に、小石ばかりの、河原があつて、それに陽は、さらさらとさらさらと射してゐるのでありました。 陽といつても、まるで硅石か何かのやうで、非常な個体の粉末のやうで、さればこそ、さらさらとかすかな音を立ててもゐ…

汚れつちまつた悲しみに - 中原中也|朗読

汚れつちまつた悲しみに…… 汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れつちまつた悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる 汚れつちまつた悲しみは たとへば狐の革裘 汚れつちまつた悲しみは 小雪のかかつてちぢこまる 汚れつちまつた悲しみは なにのぞむ…

雨ニモマケズ - 宮沢賢治|朗読

雨ニモマケズ 雨にも負けず 風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けぬ 丈夫な体をもち 欲は無く 決して怒らず いつも静かに笑っている 一日に玄米四合と 味噌と少しの野菜を食べ あらゆることを 自分を勘定に入れずに よく見聞きしわかり そして忘れず 野原の…