想望手記

朗読家丨国立和歩のブログです。中原中也、高村光太郎等、近代詩の朗読を配信しています。

想望手記

朗読

静かな夜の書斎にて丨ゆきてかへらぬ ――京都――

名前のない夜に月明かりはなく、白熱灯の明かりが部屋の全体を暖色に染めていました。中也さんの詩集を読みながら思うことは、私はこんなにも強く、夭折の天才詩人中原中也に会いたいと願っているのに、私の想いはこの先もずっと届くことはなく、こうして残…

星めぐりの歌 - 宮沢賢治丨朗読

星めぐりの歌 あかいめだまの さそりひろげた鷲の つばさあをいめだまの 小いぬ、ひかりのへびの とぐろ。 オリオンは高く うたひつゆとしもとを おとす、アンドロメダの くもはさかなのくちの かたち。 大ぐまのあしを きたに五つのばした ところ。小熊のひ…

天景 - 萩原朔太郎丨朗読

天景 しづかにきしれ四輪馬車、ほのかに海はあかるみて、麦は遠きにながれたり、しづかにきしれ四輪馬車。光る魚鳥の天景を、また窓青き建築を、しづかにきしれ四輪馬車。 萩原朔太郎さんの詩集「月に吠える」より、天景の朗読をしました。朔太郎さんの描く…

あなたはだんだんきれいになる - 高村光太郎丨朗読

あなたはだんだんきれいになる をんなが附属品をだんだん棄てるとどうしてこんなにきれいになるのか。年で洗はれたあなたのからだは無辺際を飛ぶ天の金属。見えも外聞もてんで歯のたたない中身ばかりの清冽な生きものが生きて動いてさつさつと意慾する。をん…

北の海 - 中原中也丨朗読

北の海 海にゐるのは、あれは人魚ではないのです。海にゐるのは、あれは、浪ばかり。 曇つた北海の空の下、浪はところどころ歯をむいて、空を呪つてゐるのです。いつはてるとも知れない呪。 海にゐるのは、あれは人魚ではないのです。海にゐるのは、あれは、…

あなたはもうここにはいない|館内放送

誠に僭越ながら、インターネットラジオ的な動画をアップロードしました。まず国立にラジオトークが出来るのか問題ですが、緊張が過ぎて1オクターブ高い声になったり、所々声が裏返ったりと散々でした。お聞き苦しい部分が多々あるとは存じますが、回を重ねる…

骨 - 中原中也|朗読

骨 ホラホラ、これが僕の骨だ、生きてゐた時の苦労にみちたあのけがらはしい肉を破つて、しらじらと雨に洗はれ、ヌックと出た、骨の尖。 それは光沢もない、ただいたづらにしらじらと、雨を吸収する、風に吹かれる、幾分空を反映する。 生きてゐた時に、これ…

あどけない話 - 高村光太郎|朗読

あどけない話 智恵子は東京に空が無いといふ、ほんとの空が見たいといふ。私は驚いて空を見る。桜若葉の間に在るのは、切つても切れないむかしなじみのきれいな空だ。どんよりけむる地平のぼかしはうすもも色の朝のしめりだ。智恵子は遠くを見ながら言ふ。阿…

竹 - 萩原朔太郎|朗読

竹 光る地面に竹が生え、青竹が生え、地下には竹の根が生え、根がしだいにほそらみ、根の先より繊毛が生え、かすかにけぶる繊毛が生え、かすかにふるえ。 かたき地面に竹が生え、地上にするどく竹が生え、まつしぐらに竹が生え、凍れる節節りんりんと、青空…

林と思想 - 霧とマツチ - 宮沢賢治|朗読

林と思想 そら ね ごらんむかふに霧にぬれてゐる蕈のかたちのちひさな林があるだらうあすこのとこへわたしのかんがへがずゐぶんはやく流れて行つてみんな溶け込んでゐるのだよ こゝいらはふきの花でいつぱいだ 霧とマツチ (まちはづれのひのきと青いポプラ…

朝の歌 - 中原中也|朗読

朝の歌 天井に 朱きいろいで 戸の隙を 洩れ入る光、鄙びたる 軍楽の憶ひ 手にてなす なにごともなし。 小鳥らの うたはきこえず 空は今日 はなだ色らし、倦んじてし 人のこころを 諫めする なにものもなし。 樹脂の香に 朝は悩まし うしなひし さまざまのゆ…

山月記 - 中島敦|朗読

山月記 どうすればいいのだ。己の空費された過去は? 己は堪らなくなる。そういう時、己は、向うの山の頂の巖に上り、空谷に向って吼える。この胸を灼く悲しみを誰かに訴えたいのだ。己は昨夕も、彼処で月に向って咆えた。誰かにこの苦しみが分って貰えない…

一つのメルヘン - 中原中也丨読み解き丨朗読

一つのメルヘン 秋の夜は、はるかの彼方に、小石ばかりの、河原があつて、それに陽は、さらさらとさらさらと射してゐるのでありました。 陽といつても、まるで硅石か何かのやうで、非常な個体の粉末のやうで、さればこそ、さらさらとかすかな音を立ててもゐ…

汚れつちまつた悲しみに - 中原中也|朗読

汚れつちまつた悲しみに…… 汚れつちまつた悲しみに 今日も小雪の降りかかる 汚れつちまつた悲しみに 今日も風さへ吹きすぎる 汚れつちまつた悲しみは たとへば狐の革裘 汚れつちまつた悲しみは 小雪のかかつてちぢこまる 汚れつちまつた悲しみは なにのぞむ…

雨ニモマケズ - 宮沢賢治|朗読

雨ニモマケズ 雨にも負けず 風にも負けず 雪にも夏の暑さにも負けぬ 丈夫な体をもち 欲は無く 決して怒らず いつも静かに笑っている 一日に玄米四合と 味噌と少しの野菜を食べ あらゆることを 自分を勘定に入れずに よく見聞きしわかり そして忘れず 野原の…

人間失格 - 太宰治|朗読

最近、趣味にしていた朗読を動画にしてアップロードしているのですが、満を持して太宰治さんの人間失格の一節朗読にチャレンジしました。全文ではなく切り抜きの感じですが、太宰さんの世界観が崩れないように気をつけたつもりです。 この小説には色々と思い…

レモン哀歌 - 高村光太郎|朗読

レモン哀歌 そんなにもあなたはレモンを待つてゐた かなしく白くあかるい死の床で わたしの手からとつた一つのレモンを あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ トパアズいろの香気が立つ その数滴の天のものなるレモンの汁は ぱつとあなたの意識を正常にした …

初恋 - 島崎藤村|現代語訳と解釈|朗読有

島崎藤村さんの処女詩集、若菜集の代表作「初恋」の現代語訳です。

悲しい月夜 - 萩原朔太郎|朗読

悲しい月夜 ぬすつと犬めが、 くさつた波止場の月に吠えてゐる。 たましひが耳をすますと、 陰気くさい声をして、 黄いろい娘たちが合唱してゐる、 合唱してゐる、 波止場のくらい石垣で。 いつも、 なぜおれはこれなんだ、 犬よ、 青白いふしあはせの犬よ。…