想望手記

近代詩の朗読と詩の解説。中原中也さん等。

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レモン哀歌 - 高村光太郎|詩の朗読

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 高村光太郎さんの詩集、智恵子抄より"レモン哀歌"を朗読しました。この作品は、智恵子抄の中でも一番多くの方が触れられた詩だと思います。光太郎さんの妻である、智恵子さんの最後の瞬間が描かれていますので、悲しみや喪失だけが書かれている印象ですが、このレモン哀歌という詩には、美しい愛と刹那の奇跡が収められています。

 智恵子さんとの意思の疎通が難しくなっても、二人が育んだ愛は、最後の一瞬まで変わることがありませんでした。私はこの詩を読み返す度に、切なくも穏やかな気持ちになります。そして、奇跡という不確かな一片を信じて止まないのでした。

 

 最後まで読んでくれてありがとうございました。レモン哀歌の朗読、良ければきいてください。それではまた。

 

レモン哀歌あいか
そんなにもあなたはレモンをつてゐた
かなしくしろくあかるいとこ
わたしのからとつた一つのレモンを
あなたのきれいなががりりとんだ
トパアズいろの香気こうき
その数滴すうてきてんのものなるレモンのしる
ぱつとあなたの意識いしき正常せいじょうにした
あなたのあおんだがかすかにわら
わたしのにぎるあなたのちから健康けんこうさよ
あなたの咽喉のどあらしはあるが
かういふいのち瀬戸せとぎはに
智恵子ちえこはもとの智恵子ちえことなり
生涯しょうがいあい一瞬いっしゅんにかたむけた
それからひととき
むかし山巓さんてんでしたやうな深呼吸しんこきゅうひとつして
あなたの機関きかんはそれなりまつた
写真しゃしんまえしたさくらはなかげに
すずしくひかるレモンを今日きょうかう
昭和一四・二