想望手記

近代詩の朗読と詩の解説。中原中也さん等。

想望手記

わが半生 - 中原中也|詩の解説

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 中原中也さんの詩、"わが半生"を朗読しました。この詩の主題は、己の死です。私なりに読み解いてみましたので、よろしければ最後までお付き合いくださいませ。

 

 私は随分と苦労してきたように思うが、果たして、その苦労にどれほどの価値があったのかなんて、今まで考えたこともなかった。とにかく私は、多くの苦労を積み重ねてきたのだ。

 こうして、じっと我が手を眺めていると、思うことがある。人は結局、どれだけの苦労を消化したとしても、世間が認める価値のある人間になったとしても、人の死というのは満遍なく、平等に訪れるものなのだ。それは決して、避けられない事実なのだろう。

 それならば、これからの人生は、たとえ無為でもいいから、もっと私らしく在りたいと考えている。己にしかわからない価値や、自身だけが理解できる意味を求めて、生きてゆきたいと思っているのだ。そうやって私は、静かに死んでいきたい。いつものように、この机の前で座ったままに、死んでゆきたいのだ。

 

 という解釈をして、朗読しています。中也さんの多大な苦労は、中也さんにしかわからないけれど、特に人間関係で苦労されていたのではないかと思うのです。その人を傷つけたくなくても、気がつくと手には刃物を握らされていて、誰かを抱きしめてあげたくても、己の体温で誰かを焦がしてしまう。中也さんが求めれば求める程に、それらは遠くへいってしまうのでしょう。

 

 最後まで読んでくれてありがとうございました。中也さんと同じ時代に生まれることは叶わなかったけど、私は中也さんの紡いでくれた言葉を通して、中也さんの体温をいつも感じております。それでは又。

 

わが半生はんせい

 

わたし隨分ずいぶん苦勞くろうしてた。

それがどうした苦勞くろうであつたか、

かたらうなぞとはつゆさへおもはぬ。

またその苦勞くろうはたして價値かち

あつたものかなかつたものか、

そんなことなぞかんがへてもみぬ。

 

とにかくわたし苦勞くろうしてた。

苦勞くろうしてたことであつた!

そして、いま此処ここつくえまえの、

自分じぶん見出みいだすばつかりだ。

じっとながめるほどの

ことしかわたし出來できないのだ。

 

  そとでは今宵こよいがそよぐ。

  はるかな気持きもちの、はるよいだ。

  そしてわたしは、しずかにぬる、

  すわったまんまで、んでゆくのだ。

 

りしうたより