想望手記

近代詩の朗読と詩の解説。中原中也さん等。

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一つのメルヘン - 中原中也|詩の解説

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 夭折の天才詩人、中原中也さんの"一つのメルヘン"を朗読しました。この詩を朗読する度に浮かんでくるのは、宮沢賢治さんの"銀河鉄道の夜"でした。もし中也さんが宮沢さんの作品を一つのメルヘンと感じていたのなら、この詩は"もう一つのメルヘン"だったのではないかと考えているのです。

 

 河原は銀河、陽は月光、蝶は己、影は生命、川は涙と、そのように変換して当てはめていくと、私はなんだかしっくりときました。又、さらさらという透明さが無垢なるものを想っているようにも感じました。夜空に向かってふと広げた腕、それは羽を得たような気分になり、なんだか飛べそうな気もするのですが、この影がある故に、俺はまだあの銀河にはまだ行けないのだと悟るのです。故人をいくら想えど、こうして眺め続けるしかない気持ちが、涙として溢れたのではないでしょうか。

 一つのメルヘンは亡き弟を想う鎮魂の詩であり、己が生きている間はこうして夜空を見上げて、涙を流し続ける哀哭の詩でもあると解きました。中也さんの最大の理解者、批評家の小林秀雄さんは、この詩を「最も美しい遺品」と言われたそうです。

 

 最後まで読んでくれてありがとうございました。心を込めて朗読しました。よければきいてください。それでは又。

 

ひとつのメルヘン

 

あきは、はるかの彼方かなたに、
小石こいしばかりの、河原かわらがあつて、
それには、さらさらと
さらさらとしてゐるのでありました。

といつても、まるで硅石けいせきなにかのやうで、
非常ひじょう個体こたい粉末ふんまつのやうで、
さればこそ、さらさらと
かすかなおとててもゐるのでした。

さて小石こいしうえに、いましもひとつのちょうがとまり、
あわい、それでゐてくつきりとした
かげとしてゐるのでした。

やがてそのちょうがみえなくなると、いつのまにか、
今迄いまごろながれてもゐなかつた川床かわどこに、みず
さらさらと、さらさらとながれてゐるのでありました……

 

りしうたより