想望手記

統合失調症と共に日々を生きていくブログです。中原中也さん他、近代詩の朗読も配信しています。

想望手記

同じ型の刻印

いつも雨が降っています。なんてあまりに物哀しく言うものだから、私は降りそそぐ雪片を思わず手の平で受け止めたのです。それはあまりにも小さく繊細であり、時折冬の星座のように綺羅びやかに輝いていました。たとえこの結晶が溶け出しても頬を伝ったりは…

それを空と知りながら

キッチンはいつも同じ色をしているから好きです。しかしシンクに熱いものを置いてしまうと、たちまち火傷してしまう感覚が皮膚全体に伝わってきて、それはもう全身に鳥肌が立ってしまうので、あらかじめ水を流してから置くようにしています。そうしないとシ…

月のゆりかご

長らく降り続いていた雨が止みました。その雨は私の泥を洗い流してくれましたが、私までは洗い流してはくれませんでした。私は赤黒い塊を見つめながら冷たい温もりのある頃を思い出していました。そうしていると焼け焦げた笑顔が灰のように崩れていきました…

拾われる言葉

喧騒や雑踏の中から"クズ"とか"カス"といった言葉を勝手に拾ってきます。その音がどれだけ小さくても私の耳には入ってくるのです。自分が言われているわけでもないのに見知らぬ声や文字が大きくなって私を殺そうとするのでした。そういう時に辺りを見渡すと…

部活と水と体罰と

食べ物はよく噛んで食べるのが体に良いらしいと聞いたので、いつも以上にもぐもぐとしていたら下唇まで噛んでしまい当たり前に喋れなくなりました。その後ソースや熱いものを食べる度に悶絶しています。どうして私はこんなに鈍くさいのだと自分に対してがっ…

光と影を統べる強さ

映画「ハリー・ポッターと賢者の石」を観ました。こちらの映画は以前金曜ロードショーでチラッとみただけでしたので、この度は珈琲と素焼き大豆をお供に部屋の照明を落としてから再生したのです。そして私はすぐにハリー・ポッターの世界へと引き込まれてい…

一つだけのメニュー

ついこの間、耳栓を買いました。元々ヘッドフォンタイプの耳栓(イアーマフ)は持ってたのですが、これよりももっと外からの音を遮断できないかなという理由です。この耳に押し込むタイプの耳栓をつけてからヘッドフォン型の耳栓をかぶせてみるとそれは驚き…

配られなかった台本

ひらがなとカタカナを覚えたのはいつ頃のことだったでしょうか。ヒノキの香りに断片的な陽の光。私はそのセピア色の書斎で祖父に教えてもらった文字を使い、他愛もない文章を不器用に描いていました。規則的な振り子の足音をききながら、祖父の大きな椅子に…

幸福と不幸の見つけかた

美しいものや綺麗なものに触れると、私はその世界に引き込まれたまましばらく帰ってこれなくなります。それが本であるなら閉じることをしないし、花であるなら触れることなく抱きしめるのです。そういった出来事、瞬間の一つひとつは磨かれた鉱石のように優…

名前も知らない神様の声

小学五年生で発症した統合失調症と女性化乳房について記事を書いています。幻覚や幻聴、不登校、妄想、意欲喪失等、当時の生活をリアルに記録しています。この記事が同じ症状で苦しんでいる人や何か治療の役に立ってくれると嬉しいです。

泣き声のない君の傍に

声をあげて泣いている人がいたら、どうしたのだろうと誰もが心配になるでしょう。その時貴方ならどうしますか? 直接声をかけるか、誰かが声をかけるまで見守るか、そのどちらかではないでしょうか。素通りという選択は特別な理由を除いて出来ないと思います…

冷たいカレーライス

ぽかぽか陽気を肌で感じながら私は窓際で目を閉じていました。聞きなれた生き物の声がしています。風の音や機械の音、どこか懐かしい木の香りに瞼の温もりは何とも心地良く、不意にこの身を委ねると自我が消えてしまいそうになるのでした。 このままではいけ…

コメント欄といいねボタン

私のブログではコメント欄やいいねボタンを設置していません。それは今の時代にはそぐわないことのように思えます。私がそうしている理由は色々とあるのですが、このブログを見に来てくれる貴方が私の文章を読んでくれるだけで嬉しいというのが一番の理由に…

老いていく日々の中で

これは、私が死んだ後の話になるのですが、例えばこのはてなブログさんが100年先も存在していたとして、或いはユーチューブさんが1000年先でも保管されていたとして、その時代に生きている人々が偶然に私の文章を読んでくれたり、アップロードしていた朗読を…

ゆきてかへらぬ ――京都―― - 中原中也|詩の解説

www.youtube.com 名前のない夜に月明かりはなく、白熱灯の明かりが部屋の全体を暖色に染めていました。中也さんの詩集を読みながら思うことは、私はこんなにも強く夭折の天才詩人中原中也に会いたいと願っているのに、私の想いはこの先もずっと届くことはな…

詩の朗読と神の声音

この世界で唯一無二の文学を創り出すこと。それは恐らく全知全能の神として世界を創造するに等しいことです。当然ながら私には不可能です。もしそれが叶うのであれば全ての人に笑顔と幸せが訪れる文学を作りたい、と想像するのは雲の上の文学であり、その白…

都会の夏の夜 - 中原中也|詩の解説

www.youtube.com 中原中也さんの詩集"山羊の歌"より『都会の夏の夜』を朗読しました。「月は空にメダルように」と印象的な書き出しで始まるこの詩は東京が舞台となっています。拙い解説になりますがどうぞ最後までお付き合いくださいませ。 最初に中也さんが…

双月の砂時計

緩やかに流れていく世界の中では、時間を意識することはないのだけれど、何か予定が近づいてくると少し話が変わってきます。それの時は目の前に砂時計を置かれたような気分になるのです。 二つの透明な月を繋ぐ管に刻々と流れていく時の砂、経過時間を計り終…

空の青さを見つめていると

朗読をしようと準備していたら、舌にできものがあるのに気づきました。ら行を発声すると痛むという恐ろしい事態に困惑しています。何が原因かはさておき完治するまでは準備だけとなりそうです。なかなか思うようにはいかないものです。何事もそうであるから…

サーカス - 中原中也|詩の解説

www.youtube.com 中原中也さんの"サーカス"を朗読しました。この詩は暗唱できますのでよく車の運転等をしながら口ずさんでいます。サーカスは心地良い七五調のリズムと独特のオノマトペが特徴的な詩です。それでは私なりに読み解いていきますので、どうぞ最…

新年のご挨拶丨2023年

新年明けましておめでとうございます。 新年のご挨拶が出来る場所が在るのは幸せでした。今までの私はこういう機会がなかったので発表の場にとても感謝しています。今年も飛躍に向けて色々なことに挑戦したり、数多くを学んだりと、今は地力をいっぱいに育ん…

年末のご挨拶丨ブログを御覧の皆様へ

今年最後の記事になります。これまで活動してきた半年間を振り返ってみると、私は夏の始まりに発声や朗読の勉強を始めました。このブログを開設したのもその時期です。 あの頃はただただ漠然と何かを表現したいと思っていました。その表現というのは私にとっ…

冬の長門峡 - 中原中也|詩の解説

www.youtube.com 中原中也さんの"冬の長門峡"を朗読しました。中也さんの長男が結核で亡くなられた後しばらくして、中也さんは"文也の一生"を綴り、それと同じ筆で冬の長門峡も書かれました。 一見して部屋から映る自然の美しさを描いているようですが、中也…

深夜の雪 - 高村光太郎|詩の解説

高村光太郎さんの"深夜の雪"を紹介します。 "ただ二人手を取って、声のないこの世の中の深い心に耳を傾け、流れ渡る時間の姿を見つめ……"と、深夜の雪のこの一節は本当に圧巻の一言に尽きます。光太郎さんは智恵子さんの全てを受け入れているからこのような美…

秋の終わりと落葉

ついに秋が終わりました。世間ではとうに終わっていましたが、私の秋が終わったのでした。秋が終わると冬が降りてきました。そう確信したのは落ち葉が螺旋階段を昇っていくのを見てしまったからです。視界の端からぱりぱりとした血液の通っていない落ち葉が…

値ひがたき智恵子 - 高村光太郎|詩の解説

高村光太郎さんの"値ひがたき智恵子"を紹介します。智恵子さんと私は共通する精神疾患を持っています。それを当時は精神分裂症(現在は統合失調症)といいました。故にこの詩の中の智恵子さんの症状を私はとてもよく理解できます(私の精神疾患については『…

冬の夜 - 中原中也|詩の解説

www.youtube.com 中原中也さんの"冬の夜"を朗読しました。この詩の内容は私にとって覚えのある感情でした。私の場合はそれが女ではなかったのですが、それが姿を消してしまうと普段聴こえてこない木材の軋む音や、窓の外の風鳴り音だったりが急に大きな音を…

日曜日の朝のこと

何事もなく目が覚めていつもの呼吸が始まりました。ぼんやりと天上を眺めていると段々と世界が鮮明に見えてきます。過去の記憶が一瞬で読み込まれて私という人間が始まるのでした。 思い通りの光が窓から差し込んでいないことがわかると、瞼を閉じて小さく深…

人に - 高村光太郎|詩の解説

高村光太郎さんの智恵子抄より"人に"を紹介します。智恵子抄の中に『人に』という同じ題名の詩がありますが、こちらは冒頭の方です。光太郎さんと智恵子さんには共通する知り合いがいました。その縁で智恵子さんが光太郎さんのアトリエを訪れたのが初対面と…

月夜の浜辺 - 中原中也|詩の解説

www.youtube.com 中原中也さんの有名詩"月夜の浜辺"を朗読しました。近代詩を開いていく中で口語で書かれていると安心します。この詩が発表されたのは昭和12年のはじめですが、この詩が書かれたのはいつ頃なのでしょうか。恐らくは文也さんが亡くなられた後…