声劇台本:
ジャンル:シリアス / ファンタジー / ラブストーリー / 長セリフ有
所要時間:約25分
【登場人物】
二代目
魔王軍で
【配役コピー用】
♀ 魔王:
♂ 参謀:
────魔王城 玉座の間
──コツ、コツ、コツ(参謀の歩く音)
参謀 「魔王様。最後の門番が今、勇者に倒されました……」
魔王 「……そう」
参謀 「もとより覚悟は出来ています」
魔王 「参謀……。
参謀 「えぇ、そうですね……。天窓から差し込む青白い光りが、この玉座の間を幻想的に照らしていますね」
魔王 「この温かい光たちは、私たちを救ってくれるのかしら」
参謀 「はい、きっと。魔王様を守ってくれることでしょう」
魔王 「ありがとう……。いよいよこれを使う時が来たのね……」 スッ
参謀 「えぇ。その闇のオーブに魔王様の魔力を注いで
魔王 「……清浄、ね」
──(魔王の魔力がゆっくりとオーブに注がれていく)
参謀 「魔王軍は
魔王 「参謀」
参謀 「はい?」
魔王 「私を信じてくれる……?」
参謀 「勿論です。僕は先代の頃からずっと魔王様に仕えてきました。どのような状況であっても、僕は魔王様を────」
──パリーンッ!(オーブの割れる音)
魔王 「痛っ……」
──(必要以上にオーブに注がれた膨大な魔力が、その限界を超えて砕ける)
──(魔王が苦悶の表情で玉座にもたれかかる。慌てて魔王のもとへ駆け寄る参謀)
参謀 「ま、魔王様!? 何を……!!」
──(割れたオーブの破片が魔王の手にいくつも刺さり、ぽたぽたと血が
魔王 「っ……これで、良いわ」
参謀 「無茶なことを……。すぐに手当をします」
魔王 「参謀……」
参謀 「……」
魔王 「私はね、承知していたの……」
参謀 「何をです……」
魔王 「……人間と魔族、互いの正義がいくらぶつかり合っても、どちらかが滅びるまで戦争は続いてしまう。そうして最後の一人まで殺し合って、片方の間違った正義で創られた平和なんてうたかたの
参謀 「しかし……これ以上の交渉が無理なことは魔王様だって────」
魔王 「────それはわかっている。それでもこの戦争を終わらせなければ、歴史は悲しい繰り返しを
参謀 「だから、魔族に滅べというのですか……? ……破片はすべて取り除きました。今、包帯を巻きますからじっとしていてください」
魔王 「ありがとう。手を取り合って生きられないというなら……私が今宵、この戦争に終止符を打つ。
参謀 「魔王様、お言葉ですが人間を全て
魔王 「……」
────(包帯を巻き終えて、魔王の目をじっと見据える参謀)
参謀 「僕は決して、死を恐れているわけではありません。しかし……人間は利己的で薄汚い生き物です。たとえ魔族がこの世界から消えても、きっとまた争いを始めるでしょう……。そのような未来の為に我々が犠牲になっても良いのですか。僕はどうしても
魔王 「参謀……。私ね、お父様の力がこの身体に宿った日、魔王として生きていくことを決心したの。そのはずなのにどれだけ憎しみを
参謀 「魔王様……」
魔王 「そして今も、このような死を待つしかない状況になっても、何処かでまだ人間を信じているの……。彼らはただ臆病なだけ……。勇者もきっと本当は悪いやつじゃない。ごめんね、参謀。私は魔王失格ね……」
参謀 「いえ……。先代も、同じでしたから……」
魔王 「お父様が……?」
────(天窓の奥に見える月を眺めながら、参謀がゆっくりと口をひらく)
参謀 「先代は、魔族と人間が共に生きる未来をいつも考えていました。忌々しい鉄の鎧をまとい、人間の姿を
魔王 「そう……。お父様は勇者に封印されたと聞いていたけど、やはり殺されていたのね……」
参謀 「はい。
魔王 「……」
参謀 「僕が魔王城に逃げ帰ってからのことは魔王様のご存知の通りです。僕はやはり、先代や魔王様のように人間との共生を信じることができません。人間という生き物が心底憎らしいのです。
────(魔王の前に向き直り、片膝をつく)
参謀 「……魔王様。勇者は間もなく此処、玉座の間にたどり着きます」
魔王 「えぇ、そうね……」
────(優しい目をして魔王を見上げる参謀)
参謀 「魔の民を導く王はどうしていつも、こんなにもお優しいのでしょうね……」
────(参謀の言葉を受けて、魔王の頬に一筋の涙が流れる)
魔王 「いいえ。私は結局……何一つ成すことができなかった。
参謀 「……魔王様。大丈夫です。貴女はそのままで居てください」
参謀 「……開けっ!」
────ズズズズズ(玉座が後方にずれて、床に隠し階段が現れる)
魔王 「何……?」
────ガチャンッ、ガチャンッ(魔王の手首が強い魔力の鎖で拘束される)
参謀 「さぁ、行きましょう」
魔王 「参謀!? ちょっと、これは何の真似っ……!!」
参謀 「いいですか、魔王様。この階段は
魔王 「何を……言ってるの……」
参謀 「貴女は今から人間の世界へ行き、誰も傷つくことのない魔法を正しく使う世界を創造するのです」
────(参謀が魔王の胸の前に手をかざす)
参謀 「魔王の力は、僕が継承します」
魔王 「勝手なことばかり言って……」
────(魔王から眩い光の玉が現れると、参謀の手の平にスッと吸い込まれる)
参謀 「ぐっ……っ!」
魔王 「参謀! 魔王として此処で朽ちるのではなく、また人間として生きていくなど……私には出来ない。何故、魔王としてこの玉座で死なせてくれないの……」
参謀 「それは、貴女に生きてほしいからです……」
魔王 「……この鎖を外して。外しなさい! これは命令よ。私は魔族にも人間にも
────(魔王の腕を掴み、強引に階段を降りていく参謀)
────(そして立ち止まり、傷ついた魔王の手を優しく包み込む)
参謀 「魔王様。もし、血に染まったこの手が許せぬというのなら……」
参謀 「もう片方の手があります」
魔王 「参謀……」
────(魔王の頬に両手を添えて、涙をすっと拭う)
参謀 「この美しい左右の瞳は、正しいものも、そうでないものも……」
参謀 「その両方が見えるようにと」
────(魔王の顎に手を添える)
参謀 「そしてこの口は、世界を悲観するためのものではありません」
────(…………)
参謀 「魔王の僕が、貴女の罪を赦します」
魔王 「……」
参謀 「……心配しないでください。この戦争は僕が必ず終わらせます」
魔王 「貴方は……最初から、そのつもりで……」
参謀 「……閉じろっ!」
────ズズ(玉座が正しい位置へと動き始める)
────ガチャンッ(魔王の足首を鎖で拘束して、玉座の間に駆け上がる参謀)
魔王 「ねぇ、やめて……。行かないで」
参謀 「お元気で、魔王様」
魔王 「嫌……。私を一人にしないで……。私も、貴方と一緒に────」
────ズズズズズ(玉座が戻り、階段を完全に覆い隠す)
────(参謀、小さく息を吐く)
参謀 「……これで、いい」
────(そして、我慢していたものが溢れ出す)
参謀 「あぁ……。僕も一緒にいきたかったな……」
────ギギギギギギィ(最後の扉が開く音)
参謀 「っ……!」
────(涙を拭い、威風堂々と構える)
参謀 「……待ちくたびれたぞ、勇者よ」
参謀 「我が魔王だ。全力でかかってくるがいい!」
────とある、空への便箋
魔王N 「私は今、国を混乱させた魔女として手足の自由を奪われています。貴方が繋いでくれた優しい鎖を思い出しながら、不義の業火に焼かれるのを待っています。この鐘の音が鳴り終わるせめてもの間、私はこうして空を見上げていようと思います。そうすれば何故だかもう一度、貴方に会える気がするのです。灰色の雲の間にあの夜と同じ月がみえています。赤い夜空が綺麗です。貴方の口づけが今もこの胸を焦がしています。ありがとう、参謀────」
────
【世界観】
ファンタジーの王道。剣と魔法の世界。"魔族"というのは魔力を束ねる者である。加えて"魔物"とは魔力を与えられた生物となる。この世界は元々、魔族が魔法を正しく使って静かに暮らしていた。しかし魔法を悪用する一部の魔族が、魔王から独立して小さな国を築く。この独立した異端の者たちを"人間"と呼んだ。
人間は禁忌としていた製鉄を始める。輝くばかりの豊かな森は削られ、神々しい青白い大気は汚染されていく。鉄で武装した人間たちは魔族の領地を少しずつ奪っていった。混乱状態の中、人間は"勇者"という魔族でも人間でもないものを造り出すことにも成功した。
そうして人間はこの世界を統一して、より多くの資源を確保する為に魔王軍に宣戦布告する。作中に出てくる"闇のオーブ"とは、魔力を持つ全ての生物の魂を統べる神器である。魔王が強い魔力で共鳴させることにより、世界中の命をオーブの中へと還すことができる。それは魔力を持つ生命の滅びを意味している。尚、参謀の使った魔力の鎖が解けるのは、術者がこの世界から消滅した時でしかないのだ。
キャラクターイラスト・挿絵:HY16