想望手記

朗読家丨国立和歩のブログです。中原中也、高村光太郎等、近代詩の朗読を配信しています。

想望手記

秋の終わりと落葉

 ついに秋が終わりました。世間ではとうに終わっていたのですが、私の秋が終わったのです。秋が終わると、冬が降りてきました。そう確信したのは、落ち葉が螺旋階段を昇っていくのを見たからです。視界の端からぱりぱりとした、血液の通っていない落ち葉が舞うと、風に吹かれて皆が同じ方向へ流れていました。あのような光景をひと昔前に、何年前だったでしょうか、渋谷のスクランブル交差点で見たことがあります。何処かそれは寂し気でありました。皆あしばやにせわしなく、のっぺりと血の抜けたような顔で、あの落ち葉のように歩んでいたのでした。

 落ち葉たちはきっと、冬がやれそれと引っ越してくるので急いでいるのでしょう。降りたり昇ったり、ゆらゆらしゃらしゃら、きっと急いでいるのでしょう。道路脇に集められた落ち葉を眺めていると、ああ、今年も秋が終わったのだと私は確信するのです。落ち葉が壊れてしまわないように、私はそれを手のひらにそっとのせて、冬の空を見上げて言いました。君たちがもう少しだけ遅く来てくれれば、秋はこんなにも急がなくて良いのでしょう。暑い夏と寒い冬に挟まれて、何だかどっちつかずな季節と言われ、枯れて落ちる寸前の老葉わくらばを皆が綺麗と色づく、そのような秋が私は大好きなのです。