よく噛んで食べるのが体に良いらしいので、いつも以上にもぐもぐとしていたら、下唇まで噛んでしまい当たり前に喋れなくなりました。その後、ソースや熱いものを食べる度に悶絶しています。どうして私はこんなに鈍くさいのだと、自分に対してがっかりすることが多くあるのです。
小学五年生の頃、私はバスケットボール部に所属していて、身長が低すぎた私のポジションはガードでした。練習内容はそれほど厳しくはなかったと思うのですが、練習中にミスがあると先生は物凄い剣幕で怒鳴りました。顔の近くで大声を出して威嚇したり、床を足で踏みつけて大きな音を出したり、ボールを持っていたならそのボールをドンっと体に向けて押されたり、とにかく私は痛いのが大変嫌だったので、ミスをしないことに気をつけて練習に励んでいました。
その中でも一番きつかったのが、部活中は水分補給が出来ないという決まりでした。中には内緒で飲んでいる人もいましたが、もし見つかったら痛い目にあうという恐怖心が勝ってしまい、私はただの一口の水分補給もしませんでした。そうして事件は起こりました。いえ事件といっても、これは公にはなりませんでした。
季節は夏の入り口でした。いつもの緊迫した練習の中、クラスメイトの一人が目の前で崩れるように倒れたのです。今思えば、あれは熱中症のようなものだったとわかるのですが、当時は何もわからずに、抱えられて連れて行かれる同級生を心配しながら見送っていました。
そして、しばらくして体育館に帰ってきたクラスメイトは、顧問の先生に戻りましたと報告に行きました。すると体育館中に響き渡る声で、そのクラスメイトが怒鳴られました。その瞬間に時間が止まり、全ての音がなくなりました。怒鳴られている内容は根性がないから倒れてしまうのだと、そのようなただただ恐ろしい理由でした。泣きながらごめんなさいと言う同級生の頬に、鈍い音の平手打ちをして、突き飛ばすようにしてコートへと戻しました。
「なに止まってんだ!」という先生の怒号で、体育館の時計の針が急速に動き始めました。その後、練習をしながら皆はきっと、思っていたのではないでしょうか。もしかしたら次は自分番かもしれない。先生が良いと言うまで倒れることも、ミスをすることも、絶対に許されないのだと。誰も何も言わなかったけど、私はその時に何か大切なものを失った気がしているのです。
私が部活に所属していたのは一年と半年くらいの間ですが、鈍くさい私は何十発とビンタをされたし、頭もいっぱい叩かれたし、背中も何度も突き飛ばされたし、お腹を殴られてうずくまったこともあったけど、その先生やコーチに来ていた人を恨んではいません。あの時代はそれが正しかったのだろうし、そういうものとして学校も生徒も、保護者も皆で受け入れていたと思うから、私はその先生を恨んだりはしないのだけど、底のない悲しい気分になるのでした。
何だか話がそれてしまいましたが、この唇のおかげでしばらくまともに喋れそうにありません。完治しましたらまた朗読をしたり、声劇に参加させてもらったりと、いつも通りの日常に戻ろうと思っています。最後まで読んでくれてありがとうございました。バスケットボールや部活の楽しさはわからないままだったけど、のり弁当に入っているタコさんウインナーは好きです。それでは又。