想望手記

小学5年生で統合失調症を発症しました。このブログでは症状や体験談に加えて、精神障害者の生活をリアルタイムに発信しています。記事の内容が誰かの役にたってくれたら嬉しいです。

想望手記

嘘つきと呼ばれても

 公園の遊歩道を歩いていると、ふと蝉の声が聞こえました。私は驚いて辺りを見渡すのだけど、蝉なんて何処にも居ないし、少し肌寒い風が、夏の終わりを教えてくれるだけでありました。

 

 家族で連れ立って、幸せそうに散歩している様子を眺めていると、散り散りになった我が家族のことをふと思い出しました。父親代わりだった祖父も、母親代わりの祖母も他界して、精神を重く患った母親といえば遠くで暮らしています。私にもあのような、誰かに幸せと思われる時期があったのだと思うと、懐かしくもいたたまれなくなるのでした。

 例えば、私があの小さくて無垢な子供であるなら、「どうして秋になると、セミさんは居なくなるの?」と我が家族に問うのでしょう。すると、私の祖父ならきっと、「蝉は幼虫のまま何年も土の中で暮らし、夏に地上に出てきて成虫になるが、一週間程度しか生きられないのだ。その間に子孫を残して、死んでいくだけの生き物だよ」と、丁寧に教えてくれるのでしょうね。

 

 だから私が、もし、この先の人生で、私がそれを子供に問われることがあったのなら、「蝉は、秋の始まりと共に土の中で眠るのです。そして、夏がやって来るとまた、地上に出て暮らすのですよ」と、嘘をつくと思います。私は本当に意地悪だから、正解なんて絶対に教えてあげない。と、そう決めているのです。

 この山の向こう側に、何が存在するのか知らなかった頃、あの雲の上にはどのような世界が広がっているのかと、無限の想いを馳せていた頃、私の眼は眩いほどに輝いていた気がします。

 多くを知って、賢くなることは、果たして成長していくと言えるでしょうか。もしそうであるなら、私は人里離れた未開の地で暮らしたいです。そうして、シーリングスタンプの押された手紙を受け取りながら、いつもご苦労様、ねえ知っていますか、あの空が青いのは、海が反射しているからなのですよ。と、誰かに笑顔で伝えたく存じます。

 

 最後まで読んでくれてありがとうございました。正解だらけのこの世界は、とても残酷で、私には少々刺激が強すぎるようです。それでは又。