精神世界
旅の途中で、中原中也記念館を訪れました。今年こそは赴くのだと、新年のご挨拶にも書いていたので、無事に念願叶って嬉しかったです。二日間の湯田温泉の旅は、あっという間に終わり、化粧水をつけるのが勿体ないくらいに、つるつるになった肌を時折触りな…
我が国立家は、よくわからないルールが蔓延しています。例えば、リモコンを置く場所に細かい指定がありますし、お風呂に入ればマニュアル通りに体を清めないと閉じ込められます。洗濯物を干す際には、洗濯バサミの群れにすら、各々役割があったりもするので…
先日、マクドナルドの月見バーガーを食べました。私は毎シーズン、普段は絶対に近寄らない、このファーストフード店の月見バーガーをお腹いっぱい食べることが、年間スケジュールに組み込まれているのです。 しかし、今年はあろうことか、ワンシーズンに二度…
時代に取り残されたようなカクテルバーがありました。大通りに出ている看板はぼろぼろで薄暗く、まるで見つけてほしくないような高い位置にあり、細い路地に入って木製の重い扉を開けると、モダンな雰囲気の素敵空間が広がっていました。 そして、七十歳は過…
私の家には、ガスコンロというものがありません。いえ、決して電気式というわけではなく、引っ越してきた当初は、当たり前にガスコンロを取り付けていたのですが、現在は取り外して、押入れの奥深くに眠っている状態なのです。 このことは、生活する上で一見…
病院の待合室に座っていると、誰であってもフルネームで呼ばれます。それは至極当然のことなのですが、私にとってはそれが嫌で嫌で仕方がありませんでした。いえ、待合室に一人ぼっちで居る時に、名前を呼ばれるのは構わないのです。しかし、大勢が待ってい…
私は小学五年生の秋から、学校という一切に行けなくなりました。なので、私の最終学歴は小学校除籍と等しいです。小学校の卒業式は、当然ながら出席できませんでしたし、中学校の入学式にも行くことはありませんでした。その後、図書館や本屋さん、動画サイ…
最近は、床に溶けていくような日々が続いています。私の頭が壊れてしまったのか、心が破れてしまったのか、そのどちらでもあるのかはわからないけれど、何をしても出力が低く、反動も鈍いこの状態は、あろうことか定期的にやってくるのです。それはどれだけ…
報道番組やニュースサイトを見るのをやめてから、しばらくが経ちました。この記事を書いている現在、生活からニュースが無くなっても、特にこれといって困ることはなく、平穏な毎日を送っています。怒りや悲しみ、嘆き、失望、嫌悪といったマイナスの感情が…
私は自然が好きで、よく森の中を歩いています。そして、森には妖精が住んでいると信じています。その妖精には一度も会ったことがないのだけど、ただ一度も、存在を疑ったことはありません。もしかしたら、小人やドワーフも住んでいるのかもしれません(こち…
片思いをしている時と、食堂でホルモン定食を待っている時の気分は、とてもよく似ています。片思いが両思いに変わると、どこか不安になるように、大好きな料理が眼の前に差し出されてしまうと、何とも言えない寂しさを感じてしまうのです。 それは、世界の終…
YouTubeの世界をぼんやりと回遊していると、合成音声で朗読している動画を見つけました。興味本位で再生してみれば、時間を忘れて最後まで見入っていました。NHKのAIニュースキャスターの技術も加えて、時代はついに、ここまで来たのかと感心するばかりです…
楽しい時間を過ごしていると、突然恐ろしくなる瞬間があります。そういう時は雷にでも打たれたように、一切の思考が停止してしまいます。そうして動けなくなった私のもとへ、先程と何ら変わらない楽しさがおし寄せてくるのでした。 私が子供の頃、とある歌詞…
こうして窓から外の景色を眺めていると、都会の喧騒の中で過ごしていた頃を思い出します。あの頃の私といえば、家から出ることを恐れ、人もまばらの深夜にならないと、食料品店にすら行けなかったのですから、それはもう完全体の引きこもりでした。私はその…
あれはいつの事でしたか、はっきりとは覚えていないのです。 10代だった私は、都会の商店街を歩いていました。すれ違う大人からは、お酒の匂いや香水のツンとした香りがして、天の川銀河のようなネオンの光は、何も持たない私の心を高揚させてくれました。こ…
――或る日の森の中。 囁くような風が吹くと、見上げる樹々はしゃりしゃりと揺れて、青葉の隙間から温かい陽が差し込んできました。そして小鳥たちの声が森に調和すると、僅かに果物の匂いが一面を覆ったのです。 この森は数多の生命で溢れています。植物も、…
私はネットサーフィンが好きです。マウスを片手に気がつくと、30分以上も経過していてびっくりすることがあります。インターネットは調べ物をするのに便利ですし、未知なる探索という、大冒険が待っている場所でもあるのです。それは広大な電子の海の中から…
久しぶりに物語を創作をしてみようと思い立って、パソコンのモニターとにらめっこをしているのですが、書いては消しての繰り返し、真っ白しろすけの有様です。 そもそも私は詩のひとつも形に出来ないのに、物語なんて書けるのかと問われてしまいそうですが、…
美容室の匂いが好きです。私の通っている美容室は、良い匂いがいっぱいします。そこは職人さんみたいな男性が一人で経営していて、私はこの美容師さんに髪の一切をお任せしています。 昨日は前髪を重めに作ってもらい、ミディアムロングになった後ろ髪を整え…
夕暮れの浜辺にて。その少年に心を奪われたのは一刻の出来事でした。缶コーヒーを片手にぼんやりと海を眺めていると、何かを拾っては波に向かって投げている少年がいました。最初はそれほど気になりませんでしたが、あまりにも長い間そうしているので、声を…
少年の頃、祖父に買ってもらった仮面ライダーベルトを使って変身できたのは、自分を改造人間だと信じていたからでした。しかし、私が何かを信じれば信じているほど、人様は不思議な顔をして、その行動は間違いとして閉じられるのです。 透明な人達に何かを言…
空が剥がれて、山には錆が浮き、川が逆さま映る日があります。それは何もない世界が存在しているからです。突然、音もなく私を侵食して、気の滅入る場所へと誘(いざな)おうとしているのです。何もない世界というのは、特別に恐ろしくて、いつまで経っても…
空気のように存在していれば、厄介事に巻き込まれることはない。そう思っていた時期がありましたが、社会というものに溶け込むと、それが一変しました。私は自己を主張をせずに就業規則を厳守し、言われたことを機械のように黙々とやっていました。 毎日が同…
カーテンを開けると灰色の空が映っていました。責任のない風たちは木々を揺らして、ひゅうひゅうと音を立てて走り過ぎていきます。薄墨の日。あれは笑ってもいないし、ましてや怒ってなどなく、少しばかりの悲しみを含みながらじっと私を見つめているのでし…
私がそのお声を知ったのは、cluster(クラスター)という仮想空間でのことでした。パソコンにそのソフトをインストールをしたばかりで、ヴァーチャルリアリティやメタバースなんて右も左も分からない時でした。 ロビーで迷子になっていた私の耳に、不意にき…
いつも雨が降っています。なんてあまりに物哀しく言うものだから、私は降りそそぐ雪片を思わず手の平で受け止めました。それはあまりにも小さく繊細であり、時折、冬の星座のように綺羅びやかに輝きました。たとえこの結晶が溶け出しても、頬を伝ったりはし…
キッチンはいつも、同じ色をしているから好きです。しかし、シンクに熱いものを置いてしまうと、たちまち火傷してしまう感覚が皮膚全体に伝わってきて、それはもう全身に鳥肌が立ってしまうので、あらかじめ水を流してから熱いものを置くようにしています。…
長らく降り続いていた雨が止みました。その雨は私の泥を洗い流してくれましたが、私の傷までは洗い流してはくれませんでした。赤黒い塊を見つめながら、冷たい温もりのある頃を思い出すのです。そうしていると、焼け焦げた笑顔が灰のように崩れていきました…
喧騒や雑踏の中から、"クズ"とか"カス"といった言葉を勝手に拾ってきます。その音がどれだけ小さくても、私の耳には入ってくるようです。自分が言われているわけでもないのに、見知らぬ声や文字が大きくなって、私を殺そうとしているのです。 そういう時に辺…
食べ物は、よく噛んで食べるのが体に良いと聞いたので、いつも以上にもぐもぐしていたら下唇まで噛んでしまい、当たり前に喋れなくなりました。その後、ソースや熱いものを食べる度に悶絶しています。どうして私はこんなにも鈍くさいのだと、自分に対してが…