散文
私の家にはガスコンロというものがありません。いえ、決して電気式というわけではなく、引っ越してきた当初は当たり前にガスコンロを取り付けていたのですが、現在は取り外して押入れの奥深くに眠っている状態なのです。このことは生活する上で一見不便に思…
病院で待っていると、誰であってもフルネームで呼ばれます。それは至極当然のことなのですが、私にとってはそれが苦痛になりました。いえ、待合室に一人で居る時にそう呼ばれるのは別に構いません。しかし大勢が待っている中で呼ばれると、呼んだ本人も周り…
私は小学五年生の秋から学校という一切に行けなくなりました。なので、私の最終学歴は小学校除籍という形になっています。小学校の卒業式は当然ながら出席できませんでしたし、中学校の入学式にも行くことはありませんでした。その後、図書館や本屋さん、動…
報道番組やニュースサイトを見るのをやめてしばらくが経ちました。この記事を書いている現在、生活からニュースが無くなっても特にこれといって困ることはなく平穏な毎日を送っています。怒りや悲しみ、嘆き、失望、嫌悪といったマイナスの感情が消え去って…
片思いをしている時と、食堂でホルモン定食を待っている時の気分はとてもよく似ています。片思いが両思いに変わればどこか不安になるように、大好きな料理が眼の前に差し出されてしまうと何とも言えない寂しさを感じてしまうのです。それは世界の終わりを嫌…
この記事では拙いながら、私が朗読をYouTubeにアップロードするまでの過程を書いています。素人故に明後日な思考や遠回りな発言もあるとは思いますが、どうぞ温かい目で読んでいただければ幸いです。 まず私が朗読を録音する時は、それまでふんわりとしてい…
楽しい時間を過ごしていると、突然恐ろしくなる瞬間があります。そういう時は雷にでも打たれたように一切の思考が停止してしまいます。そうして動けなくなった私のもとへ、先程と何ら変わらない喜びがおし寄せてくるのでした。 私が子供の頃、とある歌詞で"…
こうして窓から外の景色を眺めていると、都会の喧騒の中で過ごしていた頃を思い出します。あの頃の私といえば家から出ることを恐れ、人もまばらの深夜にならないと食料品店にすら行けなかったのですから、それはもうある種の引きこもりでありました。私はそ…
あれはいつの事でしたか、はっきりとは覚えていないのです。 15歳の私は都会の商店街を歩いていました。すれ違う大人からはお酒の匂いや香水のツンとした香りがして、天の川銀河のようなネオンの光は何も持たない私の心を高揚させていました。この場所は私が…
――或る日の森の中。 囁くような風が吹くと、見上げる樹々はしゃりしゃりと揺れて、青葉の隙間から温かい陽が差し込んできました。そして小鳥たちの声が森に調和すると、僅かに果物の匂いが一面を覆ったのでした。 この森は数多の生命で溢れています。植物も…
夕暮れの浜辺にて。私がその少年に心を奪われたのは一刻の出来事でした。缶コーヒーを片手にぼんやりと海を眺めていると、何かを拾っては波に向かって投げている少年がいました。最初はそれほど気になりませんでしたが、あまりにも長い間そうしているので声…
少年の頃、祖父に買ってもらった仮面ライダーベルトを使って変身できたのは、自分を改造人間だと信じていたからでした。しかし私が何かを信じれば信じているほど人様は不思議な顔をして、その行動は間違いとして閉じられるのです。透明な人達に何かを言われ…
空が剥がれて山には錆が浮き、川が逆さま映る日があります。それは何もない世界が存在しているからです。突然に音もなく私を侵食して気の滅入る場所へと誘(いざな)おうとしているのです。何もない世界というのは特別に恐ろしくていつまで経っても慣れませ…
空気のように存在していれば厄介事に巻き込まれることはない。そう思っていた時期がありましたが社会というものに溶け込むとそれが一変しました。私は自己を主張をせずに就業規則を厳守し、言われたことを機械のように黙々とやっていたのです。 毎日が同じよ…
カーテンを開けると灰色の空が映っていました。責任のない風たちは木々を揺らして、ひゅうひゅうと音を立てて走り過ぎていきます。薄墨の日。あれは笑ってもいないし、ましてや怒ってなどなく、少しばかりの悲しみを含みながらじっと私を見つめているのでし…
いつも雨が降っています。なんてあまりに物哀しく言うものだから、私は降りそそぐ雪片を思わず手の平で受け止めたのです。それはあまりにも小さく繊細であり、時折冬の星座のように綺羅びやかに輝いていました。たとえこの結晶が溶け出しても頬を伝ったりは…
キッチンはいつも同じ色をしているから好きです。しかしシンクに熱いものを置いてしまうと、たちまち火傷してしまう感覚が皮膚全体に伝わってきて、それはもう全身に鳥肌が立ってしまうので、あらかじめ水を流してから置くようにしています。そうしないとシ…
長らく降り続いていた雨が止みました。その雨は私の泥を洗い流してくれましたが、私までは洗い流してはくれませんでした。私は赤黒い塊を見つめながら冷たい温もりのある頃を思い出していました。そうしていると焼け焦げた笑顔が灰のように崩れていきました…
喧騒や雑踏の中から"クズ"とか"カス"といった言葉を勝手に拾ってきます。その音がどれだけ小さくても私の耳には入ってくるのです。自分が言われているわけでもないのに見知らぬ声や文字が大きくなって私を殺そうとするのでした。そういう時に辺りを見渡すと…
食べ物はよく噛んで食べるのが体に良いらしいと聞いたので、いつも以上にもぐもぐとしていたら下唇まで噛んでしまい当たり前に喋れなくなりました。その後ソースや熱いものを食べる度に悶絶しています。どうして私はこんなに鈍くさいのだと自分に対してがっ…
ひらがなとカタカナを覚えたのはいつ頃のことだったでしょうか。ヒノキの香りに断片的な陽の光。私はそのセピア色の書斎で祖父に教えてもらった文字を使い、他愛もない文章を不器用に描いていました。規則的な振り子の足音をききながら、祖父の大きな椅子に…
美しいものや綺麗なものに触れると、私はその世界に引き込まれたまましばらく帰ってこれなくなります。それが本であるなら閉じることをしないし、花であるなら触れることなく抱きしめるのです。そういった出来事、瞬間の一つひとつは磨かれた鉱石のように優…
小学五年生で発症した統合失調症と女性化乳房について記事を書いています。幻覚や幻聴、不登校、妄想、意欲喪失等、当時の生活をリアルに記録しています。この記事が同じ症状で苦しんでいる人や何か治療の役に立ってくれると嬉しいです。
声をあげて泣いている人がいたら、どうしたのだろうと誰もが心配になるでしょう。その時貴方ならどうしますか? 直接声をかけるか、誰かが声をかけるまで見守るか、そのどちらかではないでしょうか。素通りという選択は特別な理由を除いて出来ないと思います…
ぽかぽか陽気を肌で感じながら私は窓際で目を閉じていました。聞きなれた生き物の声がしています。風の音や機械の音、どこか懐かしい木の香りに瞼の温もりは何とも心地良く、不意にこの身を委ねると自我が消えてしまいそうになるのでした。 このままではいけ…
私のブログではコメント欄やいいねボタンを設置していません。それは今の時代にはそぐわないことのように思えます。私がそうしている理由は色々とあるのですが、このブログを見に来てくれる貴方が私の文章を読んでくれるだけで嬉しいというのが一番の理由に…
これは、私が死んだ後の話になるのですが、例えばこのはてなブログさんが100年先も存在していたとして、或いはユーチューブさんが1000年先でも保管されていたとして、その時代に生きている人々が偶然に私の文章を読んでくれたり、アップロードしていた朗読を…
この世界で唯一無二の文学を創り出すこと。それは恐らく全知全能の神として世界を創造するに等しいことです。当然ながら私には不可能です。もしそれが叶うのであれば全ての人に笑顔と幸せが訪れる文学を作りたい、と想像するのは雲の上の文学であり、その白…
緩やかに流れていく世界の中では、時間を意識することはないのだけれど、何か予定が近づいてくると少し話が変わってきます。それの時は目の前に砂時計を置かれたような気分になるのです。 二つの透明な月を繋ぐ管に刻々と流れていく時の砂、経過時間を計り終…
ついに秋が終わりました。世間ではとうに終わっていましたが、私の秋が終わったのでした。秋が終わると冬が降りてきました。そう確信したのは落ち葉が螺旋階段を昇っていくのを見てしまったからです。視界の端からぱりぱりとした血液の通っていない落ち葉が…